精神保健福祉士は、精神保健分野を専門とする資格です。英語で精神保健を意味する「メンタルヘルス」のほうが馴染みがあるかもしれません。
実際に日本精神保健福祉士協会では、今まで、“PSW”としていた略称を「mental health(メンタルヘルス)」に対応する“MHSW”とする提言を示しています。以前のPsychiatric(サイキアトリック)は精神医学という意味となるため、昨今の幅広いニーズに対応することを示すため変更となりました。
名称に違わず、精神保健福祉士は様々な分野に渡って必要とされる専門職です。資格内容や必要とされる職場、資格取得方法まで詳しく解説します。
目次
精神保健福祉士ってどんな資格?
精神保健福祉士は、精神保健福祉士法に定められた国家資格です。1997年に誕生した精神保健福祉士ですが、前身となったのは精神科病院に携わる精神科ソーシャルワーカーです。そのため精神科病院を中心とした雇用というイメージがありましたが、現在では社会での多様なニーズに合わせ精神保健福祉士の専門知識が活かせる分野も拡がっています。
精神保健福祉士の資格について、詳しく解説します。
精神保健福祉士(MHSW・PSW)とは?
精神保健福祉士は、精神に障害がある人を対象として、専門的知識を以て社会生活における指導、援助を行います。
相談援助職として、同じ国家資格である社会福祉士と比較されることもありますが、社会福祉士は福祉や医療において幅広い対応が求められることに対し、精神保健福祉士は精神に問題を抱えた方への支援に特化しています。
しかしながら、精神保健の領域は児童から高齢者まで幅広く、同じ病気であっても人によって症状も様々なため、柔軟な対応力と正しい知識、適切な援助技術がもとめられる仕事です。
精神保健福祉士の役割と仕事内容
精神保健福祉士は精神的な問題を抱える方を対象に、相談を通して多職種と連携しながら問題解決の糸口を見つけることが役割です。対象が精神障害者に限らないのは、精神医学的な病名がつかないストレスや人間関係、生活環境で悩む方も対象となり得るためです。
仕事内容は相談援助が中心で、記録や電話連絡などデスクワークが主となりますが、職場によっては訪問や活動を通しての支援などフィールドワークも必要となります。
精神保健福祉士の年収・給料
精神保健福祉士の年収について詳細な年間推移を公表しているデータはありませんが、精神保健福祉士の指定登録機関である公益財団法人 社会福祉振興・試験センターでの調査によれば、精神保健福祉士の2020年度平均年収は404万円であるとの調査があります。
以下に示した一般労働者との年間賃金と比較すると、高い水準であることが分かります。
2015年に行なわれた同調査では347万円だったため、徐々に年収が向上していることも精神保健福祉士の社会的な地位が向上していることを示していると言えるでしょう。
出典:精神保健福祉士就労状況調査結果(公益財団法人社会福祉振興・試験センター)
令和4年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)
精神保健福祉士の資格保有者数
精神保健福祉士は2023年度までで、全国に1万人以上の登録者がいます。
精神保健福祉士より10年前に生まれた社会福祉士と比較すると登録人数こそ差はありますが、互いに右肩上がりで登録者が増加しています。
福祉業界での三福祉士と言われるだけあって、注目度の高さが伺えるデータです。
出典:資格登録者数の状況(公益社団法人 社会福祉振興・試験センター)
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精神保健福祉士を必要とする職場は医療や障害分野の他にも、行政や教育機関でも求められています。多種多様な文化が認められる一方で生きづらさを感じる方にスポットが当たり、専門知識と技術による援助の必要性が高まっていると言えるでしょう。
精神保健福祉士が働く施設と働き方
精神保健福祉士が活躍する職場と働き方について解説します。
精神障がい者福祉関連施設
障害者総合基本法に定められた中で、精神障がいに関する分野において精神保健福祉士の配置が必須となっている施設があります。具体的には以下の通りです。
- 精神障がい者生活訓練施設
- 精神障がい者授産施設
- 精神障がい者福祉ホーム
- 精神障がい者地域生活支援センター
その他にも作業所や福祉工場、グループホームなど専門知識を活かし支援できる施設があります。精神保健福祉士は施設利用者の支援計画を立案し、相談援助を行います。
医療施設
精神科病院や精神科クリニックに勤務し、入院・受診患者への相談援助を行います。相談室や地域連携室に所属し、院外機関との転院調整や受診予約を行うこともあります。
病院では入院患者が退院するにあたって起こるであろう問題点を抽出し、多職種と共同しながら支援を進めます。
また、患者数が増加の一途を辿る認知症も、精神科領域の疾患です。医療機関として専門の治療や相談対応を行う認知症疾患医療センターには、相談援助者として専従の精神保健福祉士を配置が義務付けられています。
高齢者福祉施設
介護保険サービスを中心とした高齢者福祉施設では、生活相談員の資格要件として社会福祉士・社会福祉主事任用資格の他に精神保健福祉士が定められています。
具体的には、これらが高齢者福祉施設として定義されています。
- 養護老人ホーム
- 特別養護老人ホーム
- 軽費老人ホーム
- 有料老人ホーム
- 介護医療院
- グループホーム
- 介護老人保健施設
業務内容は、入所者の相談援助、ひとりひとりの支援計画作成などです。福祉制度の理解と多職種連携を担い、利用者様ごとに適切な支援を行うための専門的スキルが求められています。
児童福祉施設
児童福祉法をはじめとする法律に則った児童福祉施設では、18歳未満の児童への支援として精神保健福祉士が求められます。
その中でも、資格要件に精神保健福祉士が含まれる家庭支援専門相談員の配置が義務付けられている施設は以下の通りです。
- 乳児院
- 児童養護施設
- 児童心理治療施設
- 児童自立施設
家庭支援専門相談員はファミリーソーシャルワーカーとも呼ばれ、児童相談所と連携しながら児童の社会復帰・親子関係の再構築を援助する役割を担っています。
行政機関
行政機関に勤務する精神保健福祉士は、個別支援だけでなくケース検討や自治体での啓発活動、調査研究活動も担います。
具体的には、以下の施設などが該当します。
- 保健所
- 精神保健福祉センター
- 児童相談所
- 保護観察所
また保健所に配置される精神保健福祉相談員は、地域で活動する精神保健福祉士への支援も業務として対応します。
支援対象が広い分野ですが、専門知識を以てアプローチしていくことに変わりはありません。
その他教育機関など
教育機関で配置が進んでいるスクールソーシャルワーカーは、社会福祉士や心理師の他に精神保健福祉士が資格要件として求められています。
その他に、地域福祉などの各支援センターでも活動内容に応じて精神保健福祉士が活躍できる機関があります。
現役の精神保健福祉士はどこで働いている?
令和3年に厚生労働省で発表された就労状況調査では、三福祉士の就労におけるデータが示されました。精神保健福祉士は3万人以上の有効回答数が得られ、さまざまな傾向が分析できる調査となりました。
その中で精神保健福祉士の就労先も示され、障がい者福祉・医療機関がそれぞれ25%近くを占めており、専門分野である精神障がいに携わる精神保健福祉士が多いことが分かります。
次いで高齢者施設、行政機関と続きその他の就労先も多岐に渡ることから、精神保健福祉士の就労について多様な働き方ができると言えるでしょう。
出典:社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士の「就労状況調査」について
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これまで精神保健福祉士がどのように活躍しているかを解説してきましたが、実際に資格を取得するにはどのようなことが必要になるのでしょうか。
受験方法や受験資格、登録方法を解説します。
精神保健福祉士になるための条件
精神保健福祉士になるには、年1回開催される国家試験に合格し、精神保健福祉士として登録することで名称を使用することができます。
国家試験には受験資格が定められており、毎年9月頃に開始される受験申込手続きにて受験資格の証明を行う必要があります。
時期 | 必要な手続き |
---|---|
6月頃 | 試験概要、受験申し込み手続き予定の発表 |
7月下旬頃 | 精神保健福祉士国家試験受験の手引き請求開始 |
8月頃 | 受験の手引き発送開始 |
9月~10月頃 | 国家試験受験申し込み手続き受付開始 |
1月末~2月初旬 | 国家試験開催 |
3月頃 | 合否発表 結果郵送開始 |
「精神保健福祉士国家試験」の受験資格
精神保健福祉士国家資格の受験資格には、様々な資格取得ルートがあります。詳細は以下をご確認ください。
受験資格に、養成施設等での受講が不要なケース
等 4年
指定科目履修
等 3年
指定科目履修
等 2年
指定科目履修
実務1年
実務2年
受験資格に、短期養成施設等での受講が必要なケース
等 4年
基礎科目履修
等 3年
基礎科目履修
等 2年
基礎科目履修
資格登録者※
実務1年
実務2年
(六ヵ月以上)
※社会福祉士は、受験申込時の申請により一部試験科目免除
受験資格に、一般養成施設等での受講が必要なケース
4年
3年
2年
実務1年
実務2年
実務4年
(一年以上)
【体験談】精神保健福祉士のやりがいと大変さ
多様なニーズに応じて支援を行う精神保健福祉士の方々は、どのような場面でやりがいを感じているのでしょうか。
また、精神保健福祉士ならではの大変さとはどんなものなのか、体験談を交えて紹介します。
精神保健福祉士に聞く仕事のやりがい
相談者や支援者と一緒に悩み、解決に進む一体感を感じられる
人によって悩みは様々なため、似た相談ケースはあっても全く同じケースはありません。相談内容も本人だけの問題ではなくその家族や環境にも影響されるため、毎回新しいアプローチ方法の検討が必要となります。
精神保健福祉士ひとりで解決できる問題は少なく、多職種で相談者の悩みや不安をどのように解決できるかを考えることで、チームとしての一体感が生まれます。アプローチが功を奏し、相談者と一緒に笑顔になれることが一番の喜びです。
チャレンジ精神を持って知識を吸収しながら成長できる
どの業種においても時代の流れとともに変化があり、新しいことが次々と生まれます。精神保健福祉士の仕事においても同様で、法改正や新たな治療法やアプローチ方法の発見など、学びの機会が絶えず訪れます。
相談内容は疾患のことから生活のこと、お金に関することなどさまざまで、時には想定していなかった相談内容となることもあります。目の前にいる支援を必要とする方に対し、たくさんの知識の引き出しを持っておくことで多様なケースにも物怖じせず対応しやすくなります。
ケースを重ねることで自分自身の経験値が増え、成長することができます。
精神保健福祉士に聞く仕事の大変さ
長期的な支援が必要となることが多いもどかしさ
精神に問題を抱える人にとって、すぐに解決できる方法が見つかることは少ないです。
相談者ご自身で解決できないことがあるからこそ精神的なストレス等を抱え、心が不安定になってしまうことが多いからです。相談者自身の心境の変化や受容に時間がかかることはもちろん、症状の回復と不調を繰り返してしまう疾患もあります。
一朝一夕に支援が終わることがなく長期化することが多いこともあり、自分の支援方法が正しいのか見つめ直す毎日です。
正解のない支援に自問自答する日々
相談者が求める支援は人それぞれで、必ずしも支援者が考える内容が正解とは限りません。
答えを知りたい人、ただ話を聞いてほしい人、自分では決断ができない人など多種多様です。その中で相談者と一緒に悩み、時には選択が必要な場面もあります。
相談者の意思決定を尊重しながらも、専門職として必要な説明を行い、理解してもらった上で選択してもらうことが重要です。
相談者の選択は正しかったのか、提示した選択肢は適切だったのか、そもそも「正しい」とは何なのか…。反省を繰り返しています。
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PSW/MHSW転職サポートに登録(完全無料)精神保健福祉士の社会的な役割と環境変化
精神保健福祉士の起こりは、精神科病院で支援を行う精神科ソーシャルワーカーを前身として生まれました。精神科病院に入院している患者様の相談援助に始まり、長期入院が問題となった際には退院支援を勧めていくことも役割に盛り込まれました。
精神保健福祉士のニーズが高まる中で、専門職として求められる責務と役割にずれが生じないよう、日本精神保健福祉士協会では「精神保健福祉士の倫理綱領」を示しています。
倫理綱領は、「前文」「目的」「倫理原則」「倫理基準」で構成され、クライアント・専門職・機関・社会に向けての責務が示されています。
出典:精神保健福祉士の倫理綱領
特にクライエントの安全保護と自己決定の尊重、専門職としての研鑽と連携についてしっかりと取り決められています。
厚生労働省でも2008年に「求められる精神保健福祉士の役割について」名言しており、国家資格として明確な役割を持ちながら複雑多様に変化するニーズに対応することが求められています。
社会の変化と共に拡がる精神保健福祉士の役割
精神科病院では、兼ねてから入院の長期化が問題視されており、退院を進める取り組みと、退院後の生活が問題なく送れるような社会資源の整備が課題とされてきました。精神保健福祉士は、その調整役としての役割を担い、院内外の多職種と連携し患者様の支援にあたってきました。
発達障害が注目されるようになってからは児童に関する介入が創出され、ストレス社会と呼ばれるようになってからは精神科病院だけでなく、一般企業に関する取り組みにも参画するようになりました。
他者との関わりが必要な現代社会では、対人関係によるストレスが発生します。ストレスをうまく昇華できる人もいれば、ストレスの重圧に負けてリタイヤしてしまう人もいます。
現代社会における精神保健福祉士の役割は、変化するニーズに柔軟に対応することとも言えるでしょう。
精神保健福祉士が求められる職場領域の拡大
精神保健福祉士が求められる社会的ニーズを表す具体例として、精神保健福祉士が勤務する職場領域も拡大しています。拡大を裏付けるように、2020年から国家試験受験資格の実務経験範囲が拡大されました。分野も、精神障がいだけに留まらず、児童福祉施設や生活困窮者事業、 刑事施設も対象となっています。
精神疾患は内科疾患や外科疾患と比較すると、指標となる検査結果や画像結果が得られにくい分野です。裏を返せば、人のこころが動く場面では精神保健福祉士の介入が必要といっても過言ではありません。
今後ますます高まる精神保健福祉士のニーズ
精神保健福祉士のニーズが高まる中、新たに資格取得した精神保健福祉士の数は年次推移を見ても横ばいの状態です。精神保健福祉士の増加数よりもニーズが大きければ、それだけ職場選択の幅も広がり待遇も向上する可能性があります。
就労状況調査でも、就労している精神保健福祉士のうち、55%が「やりたい仕事に就いている」と回答しています。
今後の精神保健福祉士のニーズは、雇用や職場領域の拡大を裏打ちとしながら高まっていくことでしょう。
まとめ
今回は、精神保健福祉士について解説しました。
専門知識を持って相談支援を行う援助職として、多様なニーズに寄り添う精神保健福祉士は、これからの社会にも必要とされる専門職です。
これから精神保健福祉士取得を目指す方も、精神保健福祉士として転職を検討している方も新たな一歩を踏み出すには少なからず勇気が必要です。
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